少女趣味こーなあ 長屋版

今月の少女趣味こうなあ 二十三

偶成         朱熹

少年易老学難成    少年老い易く学成り難し
一寸光陰不可軽    一寸の光陰軽んずべからず
未覚池塘春草夢    いまだ覚めず池塘春草の夢
階前梧葉已秋声    階前の梧葉すでに秋声

少年時代はあっという間に過ぎ去り 学問はなかなか完成しない

    わずかな時間でも軽々しく思ってはならない。

春に池の側の草でまどろんだ夢がまだ覚めないうちに

庭先の青桐は、既に秋の声が聞こえるのである

虎さん 朱子学で有名な、宋朝の学者、朱熹の有名な詩です。朱熹は孔子・孟子以来の儒教と老荘思想などを混ぜ合わせて新しい儒教【朱子学】を作った人です。『論語』の注釈書「集注」を著したことでも知られます。江戸幕府はこの朱子学を学問として重んじました。

「偶成」は「たまたまできた」の意。朱熹の著作のどこを探してもこのタイトルの詩はないので、別人の作ではないかとも言われています。

熊さん わしもこの詩、知ってるデ。

ご隠居 わし、この詩を始めて知ったのは、小学五年生やったと

思う。先生に言われて暗記したと思うねん。教科書に載っていた

のか、それとも先生が教えてくれたのか忘れたけど、黒板へ書い

たのは覚えているんや。もう一つ、「薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲く、

ナニゴトノ不思議ナケレド」という北原白秋の歌もその時おぼえ

たように思うねん。わしが今も詩が好きなのも、そのときの影響

やと思うわ。この詩も今のわしの年になると、ほんまにその通り

やと思うなあ。

虎さん この学というのは、同意いう意味ですねやろな。ただ成

績がよいというのではもちろんありませんやろな。

熊さん わし、先日「学力があぶない」という岩波新書読んだんですけど、その中に「分かることと分からないこととの区別が出来ない限り勉強することは不可能である。() 今では黒板に書かれた文字を写すだけで、理解することが何を意味するかも分かっていない学生がほとんどになってしまった。() 多くの学生は高校時代、数学の問題を理解して解いてきたのではなく、回答のパターンを暗記して、意味は分からないままに、なにがしかのことを書いて先生に正しいかどうかを判定してもらって過ごしてきたためである。分かることとわからないことを区別することから勉強が始まる、という基本が高校時代に理解できていない」

と、書いてありましたが、ここでいう学というのは、まずそういうことからはじまるんでっしゃろなあ。

虎さん わしらわからんことばっかりというのはよく分かっているから、その意味では学があるということかいな。